『ありがとうさんと、ばかやろうさんと、ごめんなさい』
あるご飯実験の結果を見事に文章にしてくださっている新日本文芸協会顧問の小滝流水さんに掲載のご許可をいただきましたので、ぜひお読みください。
言霊深訪⑦『ありがとうさんと、ばかやろうさんと、ごめんなさい』
ある日、4月に入社した新卒の新入社員の方に、次のような追跡実験をしていただきました。社員に行なっていただく恒例の実験です。
まず、丸いタッパー2つを用意し、両方のタッパーにご飯を詰めてもらいます。そして、片方の容器には「ありがとう」のシールを貼り、もう一方の容器には「ばかやろう」のシールを貼ってもらいます。(ご飯は、フード事業グループの設備を使って炊いたものを使います)この2つの容器を、会社の給湯室のシンク台下の両端に置いて、毎日、声を掛けていただくのです。
「ありがとう」さんの容器のふたを開けて、「ありがとう」と声を掛けます。
「バカヤロウ」さんも同様にふたを開けて、「バカヤロウ」と声掛けします。
わたしもときどき、声掛けします。すると、「バカヤロウ」さんのご飯は、少しずつ黄色に変色していきます。だんだん饐(す)えた臭いがしてきます。一方「ありがとう」さんのご飯は、徐々に、芳香が漂いはじめ醗酵していくのがわかります。
担当した社員の方は、毎日、忠実に上記の声掛けを実行していたようです。
スタートしてから、ほぼ10週間。68日経ったところで発表会を開きます。ミィーティングルームに2つのタッパーを持参してもらい、担当者に結果発表をしてもらいました。
ふたを開けると、「ありがとう」さんの器は、白く醗酵して甘い芳香がしています。「ばかやろう」さんの器はどうでしょう。
あれ?腐敗していない。初期に覗いたときには、間違いなく腐敗に向かっていたのに、醗酵が進んでいます。微妙に甘ずっぱい臭いがして、色は黄色が薄まり、確かに醗酵しています。
これは想定外の結果です。どうしたのでしょう。
実験の意図するところは「ありがとうは醗酵」し、「ばかやろうは腐敗」するということを確認しあうことでした。
わたしたちは「言霊」の作用の法則によって存在しているのだということ・・・・。ご飯や微生物とはワンワールドで繋がっているんだということを実感し、わたしたちの思いや言葉が、生命体を醗酵させたりしている現実を知ってほしくて追跡調査してもらったのです。そのうえで、きれいな言葉や上手な思いを駆使できるようになってもらいたかったのです。
どうやら実験は成功しすぎたようです。担当した社員は、「ばかやろう」さんのことを途中から、いとおしく思い始めて、「ごめんね」の思いをもって包み込んだのですね。
当初は、明らかに腐敗に向かい始めていたのです。それが逆転してしまった。腐敗菌が発酵菌に変換されたのでしょう。
不思議な思いにとらわれると共に、担当した社員のことをみんなで賞賛したのはいうまでもありません。
「思い」は実現する。思いは波及する。思いは抽象を創造し、抽象してから具象するのです。
マイナスに作用するはずの「ばかやろう」さんでさえ、愛に包み込まれた環境では「ごめんなさい」が作用して甦生に向かいだす。醗酵、健康へのベクトルをとるのですね。何度かこのような実験はするのですが、今回も貴重な体験でした。
宇宙とは言霊の海です。静止エネルギーも動態エネルギーも陰も陽も、言霊のダンスです。
友人の根本佳代子さんが試みた言霊の実験についても触れてみましょう。
彼女は、まず、さつま芋を1個と、底の浅い透明なガラス製のシャーレを2つ用意しました。次に、真ん中から2つに切り分けた「さつま芋」を、各々シャーレに入れて水を満たします。
片方のシャーレには、「ありがとうございます」のシールを貼り、もうひとつには「ばかやろう」のシールを貼るはずでした。ところが、彼女はどうしても反対の言葉を書き入れることができません。それで、こちらのシャーレには何も貼らないことにしました。
次いで、「ありがとうございます」シールの方のさつま芋には。「いも子ちゃん」と名づけ、もうひとつの方には「さつま君」と名づけます。
さて、2週間が経ちました。早速、両方とも新芽が出ています。あれあれ?シールを貼らない「さつま君」のほうが、ありがとうの「いも子ちゃん」よりも伸びだした芽が長いではありませんか。
更に2週間が経過しました。さつま君のほうは、2週間前とあんまり変わっていません。ところが、いも子ちゃんのほうは、ぐんぐん伸びて芽の背丈が数倍も違います。おまけに白い根が生え始めています。
それからまた、2週間が経ちました。さつま君の伸びはまあまあです。でも、これが普通なのですよね。いも子ちゃんの方はどうでしょう。
すごいすごい!「つる」がぐんぐん伸びて尾長鳥の尾羽のようにシャーレをぐるっと取りまいています。おまけに白い根がびっしりとついています。
彼女は「言霊のことは、お話には伺っていましたが、こんなにも違うものなのでしょうか?」「びっくりしました」と言います。
几帳面な方ですね。2週間毎に写真を撮りためています。「このあと、どうしたらいいのでしょう。」「そうですね。今度は、さつま君の方を励まして、それによる変化を観察してみたらいいでしょう。」
それから、また2週間が過ぎます。「流水さん流水さん、大変なことになりました。」「さつま君が大変。全体的に、ぶつぶつと黒い斑点ができてしまいました。」人間で言えば、アトピーになったような状態です。
彼女に「さつま君には、何と言って励ましたのですか?」と伺います。すると、「さつま君がんばれ、がんばれって励ましたんです。」なんと、さつま君は「がんばれ」って励まされたら体調を崩してしまったんですね。どういうことなのでしょう。
さつま君は極めて普通に芽を伸ばし始め、健全に育っていたのです。ところが、比較されているようなプレッシャーに、強いストレスを溜め込んでしまったんですね。いも子ちゃんには「ありがとうございます」という、親の愛と信頼の関係が整えられていました。
さつま君は、認められたかったんですね。「僕にも注目して、無視しないでください。」それで最初の2週間は、いも子ちゃんより芽を長く伸ばそうと頑張ったのでしょう。いも子ちゃんの勢いに置いていかれないように、無視されないように、がんばり抜いてきました。
そして、やっと声を掛けてもらうことができました。「さつま君!がんばりなさい!」「がんばれがんばれ!」と励ましてくれたのです。
「もうへとへとだけれど、期待に応えよう。」と思うのだけれど、それまでのストレスが蓄積していたのでしょう。「がんばれ」と言われて、さらに無理を重ねたために全身に湿疹ができてしまったのですね。
わたしたちは、野菜や動物に限らず、水や空気や、機械や建物とも、言霊で繋がっているんですね。
どうですか?お子さんや友達を・・・、会社の部下や同僚を・・・「がんばれ」という悪意なき一言によって追い込んではいませんか?
言葉を軽く見すぎてはいませんか?テレビから垂れ流されるおぞましいニュースやドラマ、あるいはバラエティ番組の影響を考えてみたことがありますか?
宇宙は言霊の海です。八百万の神々は、それぞれ独自固有のダンスをしています。そのそれぞれのダンスの軌跡を言霊というのです。
回転すれば静止の海です。静止の海を「いざ凪」といいます。うねりの海が「いざ波」です。更に回転すれば抽象です。抽象を回転させると具象します。どうぞ、上手な言霊の旅を続けてください。
上手な変化は、ゆったりとした確信の思い、すなわち言霊によってもたらされるといっていいでしょう。
小滝流水さん
深い優しさ、繊細な描写で、いつの時代にも変わることのない家族の絆や愛情を表現する詩人、俳句作家。この連載ではその奥にある言霊の法則がひとつひとつ解き明かされていきます。詩集『親子のかたち』、『母が遠くへ行かないうちに』
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